井上一男
増え続ける認知症患者への安全網として、患者が起こした事故の損害賠償を地方自治体が保険でカバーする動きが出ております。
今年の第2回定例会において、成年後見制度の相談窓口・支援機関の設置についてを質問した際も述べましたが、認知症の方が本市の中心部南北に通っている名鉄犬山線の踏切で、ひょんなことから列車をとめ、運行の遅延を生ずるなどして経済的損失を与え、本人及び家族に損害賠償を求められた場合、民間の損保会社の個人賠償責任保険では財物損害での物的補償やけが人などの補償である人身傷害においては保険対象ですが、車両遅延のみで生ずる経済的損害は、現在の損害保険では保険対象外でありました。
しかし、高齢化の進展に伴い、認知症の方が増加する中、本人や家族が地域において安心して生活できる環境づくりが官民でさまざまな取組として進められております。
そこで、損害保険業界においても、一部の損保会社ではありますが、保険対象外であった踏切及び線路上で車両をとめ遅延させたのみで生ずる経済的損害も保険対象となるという情報があることから、改めて質問します。
テレビCMでよく耳にする認知症保険、一体何をどこまでカバーしてくれるのでしょうか。
官とは、2000年度にスタートした公助として介護保険制度があります。市区町村、地域包括支援センターに介護認定(要支援認定・要介護認定)の申込手続をし、認定結果(要介護状態区分決定)の通知によりケアプランに基づくサービスの利用が受けられます。
すなわち、要支援は介護予防サービスと総合事業サービス、要介護は介護サービスを利用し、地域包括支援センター、ケアマネジャー、主治医など多様な関係者の協力のもと在宅介護を続けることができます。
民としての保険会社では2種類あります。
1.認知症と診断されたときなどに一時金や年金がもらえる生命保険型、2.第三者に損害を与えた際に補償してくれる損害保険型。生命保険型は自分の保険として優先順位の上位なのか、また毎月の保険料、5,000円から8,000円と安くないため慎重に検討する必要があるかと思います。
一方、損害保険型は認知症対策としてのセーフティーネット構築は必須と考えます。
保険商品としては、個人賠償責任保険と傷害総合保険があります。
個人賠償責任保険は、認知症が原因で他人の身体と所有物に損害を与えた場合のトラブルに対応できます。
傷害総合保険は、日常生活におけるけがによる損害を補償し、オプションで示談交渉サービスの提供や被害事故、人格権侵害に関する法的トラブルの解決に要する弁護士費用の補償、そして同居家族が行方不明の際には捜索費用の補償があるので、徘回ぐせのある高齢者に備えぜひ検討することが望ましい保険と考えます。
そこで、官民で取り組む保険対応イメージとして、1の生命保険型は自助、共助の取組として、2の損害保険型は認知症の方が踏切事故などをした場合、徘回高齢者などの見守りとして救済制度を検討できないかと考え、福祉部長にお伺いします。
1点目、徘回高齢者などが行方不明となった場合に備え、その情報を本市や関係機関が共有し、早期発見・早期保護を図るための徘回発見ネットワークなどはありますか。
あればその事前登録者、または登録されている人員は何人ですか。
2点目、徘回高齢者などの踏切事故や行方不明となった場合などに備え、損害保険を活用したセーフティーネットの構築による救済制度を検討するお考えをお聞かせください。
3点目、損害保険を活用したセーフティーネットの構築による救済制度を導入する場合、補償の提供としての加入方式は、全員加入方式か任意加入方式のどちらの方式ですか。
認知症の方が起こした事故などに関して、自治体からは国が制度導入を検討すべきとの声が上がり、国による救済制度の創設も検討されましたが、財源などの問題もあり見送られた経緯があります。
政府の認知症対策の新大綱では、自治体による保険加入の取組について、事例を収集し政策効果の分析を行うとするにとどまっており、各自治体独自の救済制度の創設が検討されております。
認知症の方の事故に備えた保険制度は、2017年(平成29年)に神奈川県大和市が初めて導入し、これまで少なくとも16の市区町村までふえております。愛知県内でも大府市、阿久比町、みよし市、豊田市を初め、来年度中に導入予定の名古屋市も含めると全国で20の市区町村が導入となります。
被害者を救済するとともに、患者や家族が過大な負担を負わないように、個人賠償責任保険の費用は1人当たり月額100円から200円程度で加入でき、一般的には自動車保険や傷害保険などとセットで契約ができます。
個人でも加入できる保険ではありますが、高齢者ドライバーの事故が多発する昨今、自動車などを手放す高齢者ドライバーらは単体での加入が難しく、無保険となる例も今後多くなると思います。家族が加入できる保険もありますが、自治体が加入する保険と比べると保険料は高くなります。
保険料は一部負担を求める自治体もありますが、全額を公費から出す自治体が多く、保険金は1事故につき1億円から5億円が上限となります。
認知症患者本人に責任能力がなく、子供などが代わって賠償責任を負ったときも保険金は払われるのが原則です。
自治体による保険導入の契機となったのが、2007年(平成19年)12月に愛知県で起きた鉄道事故です。
徘回中に電車にはねられた認知症の方が、列車に衝突して死亡する事故に関して、JR側は遺族に対して列車の遅れが生じるなど損害をこうむったとして720万円の損害賠償の訴訟を提起。
2016年(平成28年)3月の最高裁判決では、遺族の賠償責任は認められなかった。
しかし、判決文において、法定の監督義務者に該当しない場合であっても、監督義務を引き受けたと見るべき特段の事情が認められる場合には損害賠償義務を問うことができるとの記述がある。これは親族が法定及び任意後見など監督義務を引き受けた場合は、特段の事情に問われるとも読めます。
つまり、熱心な介護者ほどリスクを負うことになります。
そこで、本市として、この認知症事故に対し保険による救済の導入を検討するに当たり、福祉部長にお伺いします。
4つ目、高齢者ドライバーが運転免許証を返納する中、軽度認知障害(MCI)の方も含め認知症の診断書がある方など、一定条件を満たす方の保険料負担につき一部負担を求めるのか、それとも全額公費から負担するのか、お聞かせください。
福祉部長(伊藤誠浩)
認知症の方の踏切事故等について、お答えいたします。
今後ますます増加する認知症高齢者及びその家族を支援するため、損害賠償を保険でカバーする制度を導入する自治体が本年11月現在、全国で39市区町村と報道がなされました。
本市におきましても、民間保険会社の補償プランを調査しておりましたが、課題として捉えていたこれまでの損害賠償保険では人的、物的被害のない電車等の遅延による賠償責任には保険金が支払われない状況で、ほとんどの自治体は電車の遅延は補償対象外の保険に加入していることがわかりました。
しかし、今年度10月からは、電車の遅延にも対応した保険が商品化されたとの情報を得たことから、本市におきましても実施に向けた具体的検討に入ったところでございます。
さて、ご質問の1点目、高齢者等の行方不明に備え、早期発見・早期保護を図るための徘回発見ネットワーク等はあるか。
あればその事前登録者は何人かについて、お答えいたします。
徘回発見ネットワークの取組として、1つ目は徘回高齢者等事前登録制度でございます。
この制度は、行方不明のおそれのある方の個人情報や緊急連絡先等を事前申請に基づき登録する制度であり、その情報を西枇杷島警察署を初めとする関係機関と本市が共有することで速やかな発見・保護につながる事業であり、登録者数は本年11月1日現在67名でございます。
2つ目は、GPSを活用した居場所早期発見システムとして、徘回高齢者家族等支援事業利用者5名となっております。
そのほかにも、徘回高齢者の早期発見を目的とした「おたがいさまねっとメール」の支援者登録583名や、地域の見守りを目的とした安全・安心なまちづくりに関する協定を事業所と締結するなど、市民が安全で安心して暮らせるまちづくりの推進に努めているところでございます。
2点目の損害保険を活用したセーフティーネットを構築した救済制度を検討する考えにつきましては、初めにご説明をいたしましたとおり、全国でこの損害保険に加入する自治体の動きがあること、本市におきましても踏切は複数存在すること、さらには今後認知症を患った高齢者の増加が推計されることから、このような救済制度は必要と考えております。
3点目のご質問の救済制度を導入する場合、補償への加入方式は全員加入方式か任意加入方式かにつきましては、本来全員加入方式が望ましいと考えますが、現在実施しています徘回高齢者等事前登録制度におきましても、ひとり暮らしの方や家族とは疎遠となっている方もあること、また認知機能が著しく低下した高齢者の個人情報の取り扱い観点からも、いかに対応していくべきかや事故発生時の保険金請求、受領など多くの課題が想定されることから、当面は任意加入方式にて取り扱う方向で検討しておりますが、今後さらに課題解決に向け研究してまいりたいと考えております。
4点目のご質問の軽度認知障害(MCI)の方を含め、認知症の診断書がある方等、一定の条件を満たす方の保険料負担につき、一部負担を求めるか、それとも全額公費から負担するかでございますが、対象者をどの範囲までにするかについては加入条件を検討している段階でございます。
また、保険料の徴収につきましても制度加入への阻害要因となり得ること、保険契約者が行政か加入者か誰になるかにより、一部保険料の負担をいただくことにより請求権が誰になるのかなど多々課題があることから、現行では全額を公費で負担する方式にて検討しているところでございます。
以上のことから、認知症になっても安心して住みなれた地域で生活を継続していただけるような取組の一助として、この救済制度を令和2年度より事業化していくよう検討を進めているところでございますので、ご理解賜りますようお願いを申し上げます。
井上一男
令和2年度より事業化していく検討を進めているというお言葉、ありがとうございます。
2点目の質問の損害保険を活用したセーフティーネットを構築した救済制度を検討する考えについてですけど、今後、認知症を患った高齢者の増加が推定されることから、このような救済制度は必要と考えておりましたとの答弁ですが、私も賛同するところであります。
救済制度を検討する上で、本年11月1日現在、67名の方が徘回高齢者など事前登録制度に登録されておりますが、登録されていない認知症の方を保険で救済する制度をどのように考え検討されるのか、もう少し詳しくお聞かせください。
福祉部長(伊藤誠浩)
ただいま議員の質問につきましてでございますが、対象者の範囲だと思います。
まず2025年、認知症を患われる方につきましては、国のほうは5人に1人という推測をしております。そういうことにつきましては、市におきましては4,000人ぐらいが対象になるというふうに考えられます。そういうことから、判断能力の低下した認知症高齢者につきましては、今後大幅に増加してくるものと推測しているところでございます。
先ほど答弁にもありましたように、本市につきましては踏切が非常に多くございます。
そういう中で、踏切事故も起きております。特に、救済制度の事業化につきましては、当然やっていかなきゃいけない部分ではあると思いますが、特に対象者につきましては、認知症の軽い方、重たい方について、どのようにどこまでの範囲でやっていくかというところにつきましては、個人情報の取り扱いであったり個人の権利、認知症だからこその課題が非常に多く山積しているところでございます。
そういう中で、現行のできる範囲での制度化を実施していかなければならないかなというふうに考えております。
そのためにも、特に必要になってきますのは、議員がおっしゃいますようにひとり暮らし高齢者や高齢者世帯、あるいは生活保護世帯、低所得者など、身内の手助けのない方たちが一番どうしていくかというところになりますが、先ほど言いましたように課題が解決していない部分が非常に多くある中で、まずは解決していく。それに基づいて拡大をしていかなきゃいけないかなというふうに考えております。
そのためにも、以前にもご答弁させていただきましたように、成年後見センターであったり権利擁護支援センターの設置であったりというのが急務になってくるのかなあというふうに思います。
まずは自助、公助という部分がございますが、まず成年後見を考える中で判断能力を有する方、そういう方については任意後見というのがございまして、認知になる前に契約をしていただくような、そういうことをしていただくことによって今後の支援体制の範囲の拡充にもつながると思っておりますので、よろしくお願いしたいと思います。以上でございます。